入り口は軽やかな甘さで、後味が濃厚な短編集ですおすすめ度
★★★★★
映画化もされた表題作を含む9編の短編集です。
「ジョゼと…」はこの中でも直球のラブストーリーです。脚の動かない美しい、人にはちょっと高飛車な物言いの女性、ジョゼと、何となく面倒を見るようになってしまった近所の大学生の青年。すーっと引かれるように近づいていって離れられなくなっていく関係がとても美しく、時には濃厚に描かれます。
全編を通じて感じるのは、この「すーっと引かれるようにしてくっついていった(その後別れることもある)」男女の関係と心の動きが本当に穏やかに美しく描かれる(リアルに書けば結構キビシイ状況のものもある)ことです。濃厚な描写も下品さは皆無。「出会って付き合って別れる+ときに涙」が割合はっきりとドロドロ感を交えて描かれる現在の小説とすこし違って、すっきり甘い入り口ながら、実はしっかり味が残るというつくり。それは登場する女性達のさっぱりした人生観に負うところが大きいのかもしれません。男性に引きずられまくっていないキャラクター造形は、まさに田辺作品ならではです。結末も思わせぶりな余韻が残り、つい「それからどうなるの?」と考えてしまう(女性の勝ち!っぽいのが多いかも)…今さらながらに思いますが、「何でこんなにうまいんだろう!」と感動してしまいます。ただ、これは誰のせいでもなく時代の問題なのですが、この作品で出てくるような大阪ことばを話す30代の男性はもうほとんどいなくて…10歳プラスくらいで今風かなあ?と思います。
解説を山田詠美氏が書かれていますが、これがまた一編の短編として素晴らしい完成度です。田辺作品の男女の機微を語りながら、自分の幼い日の記憶につなげていく…この手際の鮮やかさを楽しむのもいい作品集ですのでこの評価とします。「恋の棺」を激賞されていますが、私も同感!
映画「ジョゼと虎と魚たち」の原作を含む短編集おすすめ度
★★★★★
聖子さんは大阪人を描くのが上手いと思う。ダメ男、料理上手な女達が今にも本から飛び出してきそうな勢いで描かれている。
ジョゼは映画よりもずっと面白かった。この本を男性の監督が読んだのかと思うと、ムフフと思ってしまう。
よい作品です。
おすすめ度 ★★★★☆
映画を見た後で読んだのですが、展開も結末も違っていて、これはこれでよかったです。でも違っていたといっても、読み終わった後の気持ちは映画と変わりないのが不思議です。タイトル作品意外も「あ、この心理状態よく分かる」といった箇所が、素晴らしい表現力で描かれており、おすすめ出来ると思います。