「帰れって言われて帰るようなヤツははよ帰れ!」おすすめ度
★★★★☆
いいセリフだなと感じて、思わずレビューのタイトルにしてしまったが、まぁそういうことだなと納得してしまう、
恋愛の非論理的な側面を見事に言い当てた名言だと思う。
他にもいろいろ考えさせられるモチーフがこの映画にはちりばめられている。
ジョゼが恒夫にSEXを持ちかける場面、恒夫はあわてて「ってか 俺は隣のエロ親父とは違うし」とためらうが、
さらにジョゼが「違うの?何が違うの?」と問いただす。
そうなのである。
ジョゼの肉体のみに興味がある隣のエロ親父と、ジョゼのことを愛している恒夫が行き付くさき―ジョゼとのSEX―に
本質的な違いは見いだせないのである。
またこの映画は池脇千鶴の奮闘ぶりはよく取り沙汰されているけれども、ブレイク前夜の上野樹里の奮闘も注目に値するだろう。
15か6、腫れぼったい頬にはあどけなさが残り、どう考えても大学生の役は早いように見えるが、
それでも妻夫木との濃厚なベットシーンを懸命に演じている。
ラストの恒夫のセリフをまねれば、
「二度と見ないでいい映画もあるけど、また観たくなる映画もある。僕にとって『ジョゼ虎』はそんな映画だ」。
関西弁の上手い使い方
おすすめ度 ★★★★★
ねっとりしたキスシーンを見せても3人の女性と濡れ場を演じても、妻夫木は爽やかだ。池脇は芸域が広い。
軽薄な男の気まぐれな話と取れないこともないが、妻夫木のその時の愛情に偽りはなかったろうし、池脇も貴重な恋愛の時間を生きた。
別にキッカケが「身障」でなくても、普通に恋愛としてよくあることなんじゃなかろうか。惹かれる部分と重たくなる部分というのは表裏一体。大切なのは「恋愛の時間」を持ち得ることで、何かを失うのも得るのもそれからの話である。
あっさり別れたあと妻夫木は号泣し、池脇は祖母を失った孤独感から這い上がり輝きを増す。クールでもあり、リアルでもあり、切なくもある、1つの恋愛の姿。
ちょい役が面白く、退屈させないこともポイント高い。案外何度見ても楽しめる映画だと思います。
概要
大学生の恒夫は、乳母車に乗って祖母と散歩するのが日課の自称・ジョゼこと、くみ子と知り合う。くみ子は足が悪いというハンディキャップを背負っていたが、自分の世界を持つユーモラスで知的な女の子だった。そんな彼女に恒夫はどんどん引かれていき、くみ子も心を許すが、ふたりの関係は永遠ではなかった。
『金髪の草原』の犬童一心監督が、田辺聖子の短編小説を映画化。くみ子演じる池脇千鶴は、関西弁でぶっきらぼうなくみ子の中の女性の部分をデリケートに見せて名演。妻夫木聡は、男の弱さ、ずるさ、情けなさを恒夫を通して見せていくが、恒夫が憎めない男になったのは、心の奥まで透けて見えるような彼の純な演技あってこそだろう。エロティックで美しくて切なくて泣けてしまうラブシーンも出色。恋愛の幸福感と背中合わせの残酷さを見事に描いた傑作だ。(斎藤 香)