今を生きているということおすすめ度
★★★★★
瀬川幸子は50歳、ウィーン在住の貿易会社支社長夫人だ。
ウィーンの日本人社会の中でも一目置かれる地位にある。
義理の仲の息子たちにも細心の注意をはらって育てている。
皮肉な笑みがよく似合う極めて現実的な人間だ。
そんな彼女がウィーンの市場でジプシーの老婆から不思議な眼鏡を買う。
その眼鏡をかけると、眺めていた物語や写真の仲の世界へ入ってしまうのだ。
前半はお馴染みの物語の仲で小さな冒険を重ね、眼鏡の力を試し、確信していく。ありがちなファンタジーのようだが50年配の夫人がアン・シャーリーやロビンソン・クルーソーに出会うのだ。
しかし、この物語の醍醐味は後半の幸子の過去への回忌の部分だ。
自分の不誠実から死なせてしまった弟に幸子は会いに行く。幸子の願いが叶って、昭和30年代のある日に彼女は帰っていく。誰もがちょっと不幸で寂しかった昭和の子供、それでも精一杯受け止めて子供時代を謳歌していたあの頃。 幼くして逝った弟、不遜な親戚に殴り殺される愛犬、借金のかたに働かされるために北海道に連れて行かれる姉
背中の重荷は大人になるほどに耐えられなくて、少しずつ冷淡になっていく幸子。
「私の人生は間違っていた」
皮肉な気分のうちに半生を送ってしまった主人公が見えない大きな存在に気づき、人生の光を今一度取り戻そうとする。
現実離れした題材だが、幸子の女としての苦悩、業、恵まれなかった幼い頃の思い出がよどみない筆致で綴られていく。後半の子供時代の話の部分では何度も号泣し、呼吸困難になって困った。
期待せずに読み始めた本だったが忘れられない作品となった。
藁科さん、もっと書いて下さい
おすすめ度 ★★★★★
初めての藁科作品として読みました。めちゃくちゃ面白かったです!ウイーンに住む、瀬川幸子という主婦が主人公。二人の義理の息子を育てているしっかり者の女性。ある日、市場での買い物の途中で、魔法の青めがねを買ってしまう。過去や、本の中にも行ける青めがね。幸子は家族に内緒で不思議な、危うい旅を重ねる。そして、ついに亡くなった弟に会う旅にでる。さあ、そこからが大変。こちらになかなか戻れない・・・。でも、最後は、私、泣けました。読み終わってしばらく、本を抱きしめました。 この人の本、もっと読みたいです。