・この本で取り上げられているのは、「2001年宇宙の旅」、「俺たちに明日はない」、「卒業」、「イージーライダー」、「猿の惑星」、「フレンチコネクション」、「ダーティーハリー」、「時計じかけのオレンジ」、「地獄の黙示録」、「タクシードライバー」、「ロッキー」、「未知との遭遇」。
・ 私は上記の映画のほとんどを見たことがある。ただ、この本を買っておいて言うのは何だが、好きだと言えるのは「ロッキー」だけである。私は暴力、精神異常などを描いた米国映画(「時計じかけのオレンジ」は英国映画だが)にはうんざりしている。それでも映画を見ていたのは、誇張されているとはいえ、米国の現実を知るには役に立つ部分があるからである。私のようにこれらの映画が嫌いでも、米国文化(特に1960年代〜70年代)に興味がある人には一読の価値がある。
・ 映画には背景を知らなくても楽しめる部分はあるが、監督、脚本家、原作者の生い立ちと性格、映画の時代背景(冷戦、ベトナム戦争、黒人問題など)、文学の引用(「地獄の黙示録」での「闇の奥」)などを知ると、より一層その価値がわかるのは確かである。
・私が高く評価している米国映画は、「スミス都へ行く」(1939年)、「十二人の怒れる男」(1957年)、「ウエストサイド物語」(1961年)などである。勿論、時代が違って焦点がぼけるので本書に加えるべきだとは言わないが、これらの作品についての町山氏の解説を読んでみたいと思った。
理解できなくてもいい名画があるおすすめ度
★★★★★
映画というものが、どういうことを背景として作られてきたかが、よくわかる。公開当時爆発的にヒットし、名画にあげられているものの中に今は全く面白くないものがある。たとえば、「イージーライダー」や「明日に向かって打て」などである。これらのどこが社会にインパクトを与えるほど面白いのか?名画なのか?その答えがこの本に述べられている。
当たり前のことなのだが、どの映画も、もちろん本や音楽も、その時代の制約を受けてしまう。特に映画は、娯楽でなければならないという宿命を背負っているために、その影響が顕著なのだ。その時代の空気がわからない僕には、その映画の真の姿、真の意味が伝わってこない。あるいは、伝わったとしても、その力は弱まってしまっている。
これは、「モナリザ」がなぜ名画なのかに似ている。モナリザ以前とモナリザ後で西洋の絵画が一変した。ダ=ヴィンチは解剖で得た知識などを使って人物をよりリアルに立体的に表現したのである。その歴史的意味においてモナリザはすごいのである。しかし、立体的に描くということで考えてみると、その後すごい作品が製作されているためにモナリザのすごさはかすんでしまっている。
このことに気づかしてくれるのが本書である。一読の価値あり。
時代を変えて評価される作品がすばらしいことはいうまでもない。「風とともに去りぬ」、「ローマの休日」「七人の侍」などはその筆頭に挙げられるだろう。しかし、別に理解できなくてもいい名画もあるのである。教養として観ておくのはいいのだろうけれど・・・。
これは映画史の本ですおすすめ度
★★★★☆
紋切型で恐縮ながら、公民権運動やヴェトナム戦争といった歴史の大きなうねりを体験しつつあった60年代の米国で、ハリウッド映画は観客を激減させていた。30年成立の映画製作倫理規定(ヘイズ・コード)がまだ生きていた上、40年代後半から猛威を振るい続けた「赤狩り」の影響が残り、スタッフ平均年齢も60歳を超えていたというハリウッドは、若者たちを惹きつけるような時代に即した作品を提供する力を失っていた。映画会社は倒産寸前に追い込まれ、撮影所体制は崩壊しつつあった(p4、p44等)。
本書の扱う67年から76年とは混乱に乗じてハリウッドの門外漢たちが大量に参入し、旧来の「ハリウッド・エンディング」を採らない作品が次々制作された特異な時期で、具体的には『俺たちに明日はない』から『ロッキー』の間ということになる(68年の『2001年宇宙の旅』が巻頭なのは、「新たな始まり」という作品コンセプトが開幕に相応しかったからか?)。
特筆すべきは69年の『イージーライダー』の成功で、これ以降各界からハリウッドに人材が流れ込み、しかもかつては少数の大家にのみ許されたファイナル・カットの権利を手にすることで監督は演出家から「映画作家」へと変貌する。そして本書は個々の作品解説という形式を採りつつ、各々が旧体制の何を壊したか、いかに同時代と対峙したかを示すことで、大きな構図を浮かび上がらせている。
しかし本書で一つ大きな問題が語り残されていて、それはTVの台頭。この点については、町山は別の著作で扱っている。ただしTVに相応しく、実況的に。
自力で「映画の見方がわかる」ようになるかは貴方次第おすすめ度
★★★☆☆
評論家としての町山氏は偏向がありすぎ、個人的には好きではない、と前置きして。そんな私でも、頷けることの多い本でした。その点ではお薦め。
ですが、そもそもここに書いてあることは、映画をたくさん観れば自然と分かること(取り上げられている映画だけではなく、色々な映画全般ですが)だったりするので、そういう見方を活字で読むのにはかなり今更感がありました。
もっとも、こういう本を読んで、初めてここで挙げられているような見方に気付く人もいるでしょうから、そうした人にはいい本、需要もあると言えるでしょう。
が…それはそれで、映画の見方は映画を観ることで養うべきであって、その点、この本は余りにズバリ答えをストレートに書いてしまっているのが問題といえば問題。個人的には、こういうパズルの回答集のような本には疑問が残ります。
わからなかった方へ。
おすすめ度 ★★★★★
人が激しく推薦する映画を見て、正直「意味わかんない」と思ったけど他人には「やっぱ深いよね」とか「理解って言うか、感じる作品だよね」などとやっぱりわけのわからない理由で推薦してしまったあなた、この本はお勧めです。
私は「タクシー・ドライバー」(アマゾンのスーバービット版で現在評価5!)を初見でみたとき、なぜこの映画が面白いと感じるのかさっぱりでした。この本は、あなたがわからない理由は、前提となる知識が無いから映画の行間が読めないからだということをイヤというほど教えてくれ、わからない映画を無理してみることが通であるという勘違いをきづかせてくれます。(ちなみに、私はその類でした(苦笑))
この本を読んだら、まともな「映画通」に近づけることは請け合いです。
…おそらく女の子にはモテませんが。