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マンガはなぜ面白いのか―その表現と文法 (NHKライブラリー (66))

夏目 房之介
おすすめ度:★★★★★
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安心して読めるマンガ学の基本書のひとつ
おすすめ度 ★★★★★

 1996年のNHKの人間大学シリーズのテキストを再構成したもの。早稲田と成城での公演が2本ついている。
 マンガ学の基本書としては、95年の別冊宝島EX『マンガの読み方』が第一だろうが、これはその共著者だった夏目の続編に当たるもの。しかし、補遺というより、より整理されて、すっきりしたものになっている。マンガ史に至っては、アトムの次がゴルゴ、そして、吾妻だけだ。実際、たぶん、理論的にはこの三つで足りる。他のマンガ研究者が採り上げたがる奇をてらった技法よりも、凡庸なドラえもんの文法的な底力に注目しているのもおもしろい。
 早稲田の恋愛マンガ論は、いまいち。手塚とつげとタッチで恋愛マンガだ、と言われてはなぁ。成城の方は、香港マンガの現在。これも、なんで、というような、どうでもいい内容。せっかく前半が体系的にまとまっているんだから、こういう関係ない古い講演録でページ数を水増ししたりしなければいいのに。



最近マンガを読まなくなったあなたに
おすすめ度 ★★★★★

冒頭でいしかわじゅん氏曰く、「学問としての権威ずけや上昇志向はマンガには不要」。作者も「マンガ学」の成立は「悲観的」に考えておられる。さまざまなマンガ上の技法や効果は説明されずともマンガ愛好家は体感的に知っていることであるし、それをマンガ非愛好家に知らしめる必要もないと思う。
本書の面白さは、1950年生・団塊の世代・文豪漱石の孫にしてマンガコラムニストとしての著者の異才と、自分史に照らし合わせマンガへの思いを饒舌に語っている点である。マンガ恋愛論では自身の恋愛観をさまざまな作品と絡めて語っており、ここでは評論というよりは私小説的といえる。



没入して読み、クールに読む
おすすめ度 ★★★★☆

 マンガ・コラムニストのマンガ表現/文法論。
 オノマトペ(擬音、擬態語)、キャラクターの感情表現、フキ出しなど、マンガを構成する要素への考察。さらに、さまざまな種類(大、小、縦長、横長)のコマの連続によってストーリーにリズム(緊張と解放)を持たせる方法や、コマを重ねることによる多層的な時間表現の解読のあたりはとくに新鮮でした。

「言われてみれば確かに」という箇所を言葉にできる人はそんなにはいない。最初は普通にファンとして(入り込んで)読み、その後評論家としてクールに読む、この2つの読み方を行ったり来たりできることが重要だろう。


まじめな研究に値する
おすすめ度 ★★★★☆

橋本治が『花咲く乙女たちのキンピラゴボウ』にまとめられる文章を書いていた1970年代は、まんが評論の歴史では一つの山をなしている。批評の筆をふるいたくなる作品・作者が輩出した時代だからでもある。
しかし、それ以前以後にくらべて評論の中身に本質的進歩があったかというと、それはまた別の話である。

質が変わったのは、吉本隆明の『言語にとって美とは何か』の方法論の影響を受けた夏目房之介が、まんがの要素は個々のコマに描かれた絵だと規定し、そこからまんがを分析しまんが理論を立てていこうとしてからである。夏目の弱みは、まんがを言語などその他の表現との差異と同一の関連において捉えることが少ないことである。

「まんがとは(三浦つとむ謂うところの)主体的表現が客体的表現に優先する絵画」というのが1970年代に出した、私の個人的なまんがの定義である。

夏目のまんが評論が出るまで、この規定に基づくような評論(あるいはそれに類する評論)が出てくることはあるまいと、批評家一般の能力に関して高をくくっていたから、夏目の出現はややショックであった。あの『文学評論』『文学論』をものした学者の孫と知って、さもありなんとは思ったが。

まじめな研究に値する書である。

その割に、買ってから何年も経つのに、検討をさぼっているのだが。

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