『被爆者』にさせられた3世代家族の素敵な物語。おすすめ度
★★★★★
人類が開いてはいけないパンドラの箱が開いた。
1945年8月6日軍都広島に投下 3日後の8月9日長崎に投下。
広島では14万人死去。長崎では7万人死去。
1945年8月6日をもって5人家族は3人家族になった。
原爆が落とされた時から13年経過した 広島の下町風景から この作品は始まる。
銭湯の場面は生々しい。女性達の身体にのこる被爆の痕跡。
いつ「被爆者」として死ぬのか その不安に怯えながらも何も語らない『被爆者』。
きわめて率直な 作品であり 『被爆者』のその後が 具体的に描かれている。
一言で言えば、『被爆者』として差別されている家族3世代の物語。
原爆投下された者たちは、投下した者の殺意と被爆したことによる自己の身体の異変、更に殺されつつある自己を感じながら生きているのだ。
被爆者とは差別されている人たちであったという実情をこれほど明確に描いた作品は無い。
「死ねばいいという声が聞こえる。自分は幸せになってはいけない。そっちの世界にいってはいけない」
生き残った長女(麻生久美子)が プロポーズした男に語る台詞は辛い。
さらに、彼女は言う。「原爆は落とされたのよ」と水戸に疎開していた弟にもキッチリ言う。弟は「原爆が落ちた」と言ったのである。
この一家の 物語を 長男の娘の目から 再発見させる。
こんなにも 悔しい、無念な生き方をした 一家とそれをとりまく人間模様。
この長男の娘を演じるのは田中麗奈。
彼女は被爆した母の突然死、さらに被爆した祖母の死ぬ姿も生々しく見ているのである。
こんなにも けなげな 娘が 今いるのだ。
一度は 観ておく映画である。
すばらしい完成度。
祈る気持ちが、心に刺さる
おすすめ度 ★★★★☆
死んだんじゃないよ。
殺されたんだよ。。。
こころに悔しい思いをいだきながら
自分だけでもなく、子子孫孫まで・・・
そんな苦しい気持ちを誰に言えばいいのだろう。
誰にも償ってもらえない・・・・
悶々とした気持ちを抱きながら・・・
だからこそ、
こんなことは二度と無いように・・・と
祈る気持ちが、心に刺さる。
そんな映画です。
概要
広島に原爆が投下されてから13年後、原爆で父と妹を失った皆美は母とふたり暮らし。被爆者の彼女は恋愛も結婚もあきらめていたが、会社の同僚である打越から告白をされる。とまどう彼女を打越はやさしく包み込むが…。それから半世紀後、親戚へ養子に出されていた皆美の弟の旭は中年になっていた。彼は家族に黙って広島へと旅立つ。父親の謎の行動を心配した 娘の七波は、父のあとをこっそりつけていく。そして広島で彼女はいままで語られなかった自分の家族のことを知ることになる。
こうの史代の同名名作漫画を『半落ち』の佐々部清監督が映画化。原作漫画の世界を大切に慈しみながら描きつつも、『桜の国』の七波のエピソードに回想シーンを折り込むなど独自の演出法で、原爆がひとつの家庭に起こした悲劇を綴っていく。前半の皆美の悲しい運命には胸がつめつけられ涙が止まらないほどだが(麻生久美子好演)、その感動を受けて展開していく後半の七波の物語は、演じる田中麗奈のサッパリとした個性が際立つ。何も知らなかった彼女が父と母の出会いを知り、封印していた母親の死の真実を知る。七波の心の旅が、そのまま観客の『夕凪の街 桜の国』の旅となり、感動がじんわりと心にしみこんでいく。戦争、原爆、核というと堅いが、それを自然に考えさせられる、こんな悲劇を繰り返してはいけないと切実に思わせる傑作だ。 (斎藤香)