凄まじい・・・おすすめ度
★★★★☆
戦争が兄の心を壊してしまったのだろうか。そのどこか投げやり的な
生き方は異常とも思える。そんな兄に翻弄される家族。特に弟禮三が
作詞家として売れてから以降は凄まじい。普通の人間ならとっくに
縁を切ってもおかしくない状態なのに、禮三は兄をかばい続ける。
切りたくても切れない。家族とはそういうものなのかもしれないと
思う。だがついに弟が兄を見限る日が来る。そして兄の死。
「兄貴、死んでくれて本当に、本当にありがとう。」
禮三の叫びの中に、深い悲しみを見た。もし戦争がなかったら、平凡な
兄弟でいられたかもしれない。そう思うと、兄の人生が哀れでならな
かった。
凄まじいおすすめ度
★★★★★
なかにし礼の自伝的小説。一言で言うなら、凄まじいです。
題名の通り兄弟の話なのですが、何を考えているのか分からない兄とそれに振り回され続ける弟の鬼気迫る物語。「兄貴、本当に、本当に死んでくれてありがとう!」と最後には弟は海に向かって叫びます。
それでもこの弟が本当に兄を憎んでいたのかどうかが僕には分かりません。弟はある意味、兄によって成長させられたようにも思えますし、兄は弟を愛していたんだと思うからです。
戦争から生きて帰った兄の行き場を失った悲劇的な人生は何かしら美しささえ感じられます。悲劇的だからこそと言ったほうが正しいかもしれません。
それにしてもすごい作品でした。自伝的小説というものは解釈が難しいです。
沸き上る「情」の感動おすすめ度
★★★★★
「きょうでお別れ」「時には娼婦のように」・・・、歌謡曲の平板な歌詞で大ヒットを飛ばし大もうけをしている、ちょっと屈折した雰囲気を漂わせた作詞家というのが、なかにし礼氏に対する印象でした。けれども、「石狩挽歌」には不思議な感動を覚えたものです。
この本は、なかにし氏の作詞の秘密の一端ーいえ、なかにし氏ご自身の漂わせるなぞめいた魅力の理由を教えてくれるようです。
氏が運良く(?)作詞家となり、夢のような大金を稼ぎ出すその端から、これまた湯水のように使い果たす「兄」。そのために、弟は、稼いでも稼いでも、借金に追われなくてはなりません。普通なら、兄弟の縁を切るところなのに、それが出来ないのです。一時期父親代わりであった兄に対する「情」に縛られ、兄が死ぬまで振り回されまる。氏の描く「兄」が狂気であったならば、それに付き合う「弟」にもその狂気が乗り移っていたとしか思えません。時に人を狂わせる「情」が様々な場面に絡まり、人を操っています。しかし、その「情」は、場所を変えれば人を感傷に誘う様々な歌、心揺さぶる「石狩挽歌」を生み出しているのでした。
この本には、芸術が生まれる前の混沌としたエネルギーが沸き上っている泉が描かれているようにも思えました。まさに、他人事の論評のようで恐縮ですが「兄」を捨て切れなかったなかにし氏だからこそ、心打ついくつもの歌詞が書けたのでしょう。氏のもつ「情念」のすさまじさに、圧倒されました。